考察.2 記号化したヒーロー
■ラクガキ専用
ファイズのデザインをはじめて観た時(約3年前)、「おいおい、スゴいことになってるよ」とやっぱりつっこんだ。だって、顔が○と│だけなんだもの。これが中学生だったら、○を◎にした後で下品な斜線sを書き足して……コホン。というか、このシンプルきわまりない《○+│=φ(ファイズ)》のデザインコンセプトは「子供が似顔絵にしやすい」というものだったらしいですね。そのバリエーションで《○+×=χ(カイザ)》、 《○+▽=δ(デルタ)》も生まれ、後付けでギリシア文字を当てたとか。
ヒーローの顔は、番組の顔だというのに、なんとも安直な……。かの初代仮面ライダーはバッタ顔に「自然」を、ストロンガーはカブトムシ顔に「最強」の意味を宿していたといいますが、ファイズはラクガキ用の「記号」ですか……。などと落胆すると思ったら大間違い。この「記号」こそ、ファイズというヒーローを象徴していたりするから、油断なりません。
■虚(うつ)ろな器(うつわ)
変身ベルト(ファイズギア)を腰に巻き、「変身!」のかけ声で変身。バッタ男から派生したデザインとオートバイ。トドメの必殺技は、高く飛び上がってのライダーキック。ファイズは、仮面ライダーとしての「記号」を忠実にトレースしたヒーローでした。上記項目があれば、誰だってファイズが仮面ライダーだと認めるしかありません。たとえ、中の人がどんな悪人であろうとも……。
「仮面ライダー555」作中において、ファイズはオルフェノクを殺すことができる道具として描かれました。変身ベルト(ファイズギア)が持ち主を選ぶことも、設計者の思想や真の所有者も明らかにされることもなく、装着者の意志によって敵にも味方にもなったのです。それゆえ、ファイズギアの争奪戦がたびたび行われ、装着者もコロコロ変わりました。そうです、ファイズ単体には個性もドラマなく、「仮面ライダーとしての記号」だけが与えられていたのです。
※この「記号化」の賢いところは、本来のターゲットである幼児にとっては、中の人のドラマなんてどうでもよく、毎回ファイズが戦えば満足するという性質を完全に逆手に取っているところですよね。
■男(ヒーロー)は中身で勝負
なんで、こんなうわっ面だけの「仮面ライダー」が生まれたのでしょうか。その理由は、主人公が2人に分裂したからに他なりません。前述の通り「仮面ライダー555」には2人の主人公がいて、ドラマチックな宿命・運命というものをすべて「木場くん(悩み担当)」に押しつけていました。だから、もう1人の主人公「巧くん(ヒーロー担当)」には、「仮面ライダーの記号」以外、なにも残っていなかったのです。
こう考えると、「巧くん(ヒーロー担当)」が旅に出ていた理由や家族構成などの背景が、作中でまったく描かれなかったのにも納得がいきます。彼はなんのドラマも背負わない裸一貫の状態から「ヒーローに相応しいキャラクタに成長しろ!!」という無理難題を押しつけられていたのです。
日本全国を旅するフリーター。あっけらかんとした正直な男。どちらかというと無口だが、ひとたび口を開けば、あまりにも率直な言動ゆえに、すぐに誤解されヒンシュクをかう。職についてもすぐにクビになり、これまで500以上の仕事を経験。良くも悪くも喜怒哀楽をはっきりと現すタイプ。
これは、東映の「仮面ライダー555」の公式サイトに掲載されている「巧くん(ヒーロー担当)」の紹介文。作中では、いつもふてくされている印象の彼でしたが、実は単純明快な扱いやすいキャラとして設定されていたようで。
ね? 上記の無理難題をこなせるような、オシの強いキャラクターに成長する将来性バッチシだと思いません?
「わはははは! オレがファイズだーーーーっ。 文句あるヤツァ、シバいてやるから出てきやがれってんだーーっ スマートブレインも、オルフェノクも関係あるかぁ!! うじうじ悩んでんじゃねーぞっ、キバーーーっ!!」
こんな感じに(やりすぎ)。とまぁそういうわけで、限りなく陰性の「木場くん(なやみ担当)」と、トコトン陽性の「巧くん(ヒーロー担当)」。この2人の主人公が織り成す重奏(ドラマ)が「仮面ライダー555」という作品が当初に目指していた方向だったんじゃないかしらん。