考察.1 核心

仮面ライダーカブト」の物語が、第34話で核心へと向けて動きはじめた。


常に的確な判断と大胆な行動で万難を排し、登場人物ならびに視聴者から「正義の盟主」としての信頼を得てきた主人公「天道総司=仮面ライダーカブト」が、エゴイスティックな正義のために他のライダーを根絶すべく活動を始めたのだ。自らの正義を貫くために他者の正義を否定する。乱暴な物言いをすれば、侵略だ。


ポスター画像

  • 「オレが正義」というコピー
  • ゼクトルーパーの群れを率いるように立つカブト。


この展開は、番組開始前に開示された番宣ポスターなどによって予兆されていた。どういうことか、説明しよう。


いわゆる平成ライダーは、基本的に「葛藤を描く群像劇」だ。それは絶対悪の存在を排除するものであり、同時に安易な言葉で語られる「正義」を否定する。その平成ライダーにおいて、「オレが正義」という言葉を鵜呑みにはできない。まして背後に軍隊を従え、武力を誇示するような「正義」ならば、なおさらだ。そして注目すべきはカブトの「星条旗」と同じカラーリングだ*1


仮面ライダーカブト=天道総司」とは、仮想アメリカ合衆国なのだ。


さらに物語の発端となった7年前の「渋谷隕石事件」。市民にとっては理不尽すぎる悲劇のカタストロフは、世界を震撼させた9.11事件のメタファーだ。9.11事件の後、「世界の警察」を標榜するアメリカ合衆国は、報復として圧倒的な軍事力で他国へと侵攻した。対して「仮面ライダーカブト」の天道総司は、渋谷隕石事件の出来事をきっかけに、身内を守るために他のライダーたちに宣戦布告をした。


両者の相似は必然だ。正義の盟主として君臨する者が、私情に基づく正義で侵略行為を始めたときの恐怖。オブラートにくるみながらも、視聴者(ちびっ子)たちに体験として伝えること。正解を明示せずとも、そこから何かを感じてもらうこと。それが本作が自らに課した課題なのだから。


仮面ライダーカブト」が描こうとする物語は、これで終わらない。盟友である我が日本国は、アメリカ合衆国とどう付き合ってゆけばいいのか。傲慢だが、アメリカ(=天道)は悪ではない。しかし、だからといって「軍事力を提供しろ」と言われて「はいそうですか」と従うことは許されない。対等の友だからこそ、友のためにできることを探すのが友情というものだ。


最終的に、この物語がどこに着地するかは分からない。ともかく、もうひとりの主人公、加賀美新の活躍に期待したい*2

*1:天道がシャドーの隊長に正式に(?)就任した今、やっとポスターのシチュエーションになったというべきでしょう。

*2:天道がアメリカで、加賀美が日本だったら……。やさぐれちゃった矢車さんは、かつて冷戦を繰り広げた共産圏だったのかも。